とんかつ界のアウトレイジ!とんかつ茶漬けの「すずや新宿本店」

目玉焼きには、醤油かソースか。

終わりなき戦い。
ところがこういった論争をしていると、時々しゃしゃり出てくる者がいる。

「めんつゆうまいよ。」

こういう奴はだいたい味噌汁に七味唐辛子を平気で入れたりするし、お好み焼きをおかずに白米を食らう事もいとわない。
昨今はそーめんにマヨネーズをかける奴もいるらしい。

薬味感覚か。

そう。これが邪の道。
今日のテーマに他ならない。

本日のとんかつパトロールは「すずや新宿本店」、とんかつ茶漬けである。
とんかつは、変化球として「カツ丼」「カツカレー」という最強の飛び道具を持ってはいるが、基本的にはカツを揚げたものにソースなり塩なりで召し上がるもので、バリエーションがそこまで多い料理では無い。

そこに斜め上からぶっかけられる「茶漬け」というラビリンス。
まさに邪道。
アウトレイジ。

とんかつと茶漬けという、両方ともに歴史ある料理をいきなり合体させたファッキンジャップ。

ファッキンジャップくらい分かるよバカヤローである。

とんかつ界のアウトレイジ!とんかつ茶漬けの「すずや新宿本店」

しかしながら、人類が生まれて二万年。そろそろ料理のバリエーションも出尽くしてきた感は否めない。
その中でも、最初は邪道と罵られようとも、次第に人々に受け入れられ、浸透し、いまや定番に昇格したものもあるに違いない。
苺に練乳をかけたり、スイカに塩をかけたり、ハンバーグにチーズをINしてみたりである。
そうなのだ。邪道といえども、食べ物の世界では決して無視できないのだ。

歌舞伎町入口という場所もあいまって、肩で風を切って歩くような少し邪な気持ちにもなりつつ「ああ、俺は今日とんかつを茶漬けにするんだ・・・」という背徳感と、「もうカタギには戻れねえんだな・・・」という覚悟。

とんかつ界のアウトレイジ、それがとんかつ茶漬け。

元々まかないで始まった「冷えてしまったとんかつをなんとか温かくして食べようとお茶をかけたのが始まり」との事。

とんかつ界のアウトレイジ!とんかつ茶漬けの「すずや新宿本店」

注文したのはもちろんとんかつ茶漬け。
ソースは、定番醤油味か、からし醤油か選べる。
軽く火を通した柔らかいキャベツが、とんかつの上に乗せてあるのも変わっているところ。
さらにトッピングとして温泉卵・キムチ・とろろを選べるというアウトレイジっぷり。
どんどんかけ離れていくトンカツらしさ。

でもちょっと待ってほしい。

「トンカツらしさ」って…なんだ?

確かにトンカツは、油で揚げたサクサクの衣と、中のジューシーな豚肉が魅力だ。
だけど、お茶漬けにしちゃいけないなんて、誰が決めたっていうんだ?

知らぬ間に気づいてた
自分らしさの檻の中で
もがいてるなら
誰だってそうなんだ。
僕だってそうなんだ。

「名もなきトンカツ」より

とんかつ界のアウトレイジ!とんかつ茶漬けの「すずや新宿本店」

味噌汁はしじみ汁。とんかつ以外はおかわり自由。
とんかつ茶漬けの食べ方はひつまぶしに似ており、まずはそのまま半分ほど頂いた後、ご飯の上にとんかつとキャベツを載せてだし茶をかけて召し上がるスタイルという。

実食。

一口食べて気づくのが衣の硬さである。

とんかつの衣というのは大きく分けてふたつある。
柔らかい衣でジューシーな肉の美味さを味合わせるタイプと、硬めで歯ごたえを楽しむタイプ。
こちらのお店は「茶漬け」にするという宿命があるため、基本的に後者である。
最初から柔らかい衣だと、後に茶漬けにした時にふやけ過ぎてしまうためだ。
ちなみに通常のとんかつ定食的なメニューももちろんあるのだが、やはり茶漬けを前提としているためか、衣が若干かために感じてしまう。

さらに気になるのは、この衣、ザクザク感があまりない。
硬い系の衣はサクっとした歯ごたえが大切なのだが、そこまでの振り切った硬さでもない。
柔らかくはなく、かといって歯ごたえを楽しめるほどの硬さも感じない。

肝心のかつはヒレかつ。
後でお茶漬けにするとすればヒレの方が合うのかもしれない。

まあ、ここのとんかつは、やはり茶漬けにしてからが本番である。
定番醤油味、辛子醤油味、にんにく生姜醤油味の味付けがあるという。
ここはまずは定番醤油を選択。

実際、美味い。
ここでしか食べられない美味さ。

ご飯、とんかつ、キャベツ炒めと、付け合わせの漬物などと一緒に出汁茶漬けにした味わいは、確かに唯一無二である。
やや硬めのとんかつ衣と、一度火を入れた珍しいキャベツの提供方法にしても、すべてこの茶漬けの布石なのだ。

オンリーワンのメニューは代えがたいし、これが長く愛されている秘訣でもあるのだろう。
ただし、他のメニューでも同じ衣、肉質になってしまっているのが少し残念だ。
例えば定食では柔らかめの揚げ方・肉の部位で出すというのも良いのではないかと感じた。

ただ、新宿のど真ん中で、王道のとんかつではなく「とんかつ茶漬け」というアウトレイジ・スタイルで戦い続ける気概には感心するところだ。
とんかつ会の唯一無二の存在として、これからも残っていって欲しいお店であった。
ごちそうさまでした!


【レビュー】5点満点
キャベツ:ゆでキャベツ 3.2
味噌汁:しじみ汁 3.5
衣:かため 2.8
肉:ヒレかつ 3.2
つけあわせ:漬物 3.0

【総合評価】100点満点
52点